2008年9月3日水曜日

和綴じ本

8月にSilicon Valleyに行った折, Stanford大学のDon Knuthさんの家に寄った. 私は数年前からThe Art of Computer Programming(TAOCP)の監訳をしていて, エラーを見つけてはメイルで報告し, 先方からは航空便でコメントが送られてきたりしていたが, 会うのは初めてであった

TAOCPの第4巻は, ペーパーバックの分冊(Fascicle)の形で, これまで分冊2, 3, 4, 0が刊行されている. これらの分冊は刊行前に, Pre-Fascicleとしてインターネットからダウンロード出来る. 私はPre-Fascicleを和綴じにしていたので, 今回その1冊をDonに見せた. Donは奥さんのJillが和綴じが大好きだと喜び, 階下に伝えにいった. やがてJillが和綴じの本を持って2階へ来, しばらく和綴じの話題になった.




上の図は和綴じを示す. 細い線は本の輪郭, 太い線は綴じ糸を示す. 本の方は隠線消去してある. 糸の実線は外から見える部分, 破線は本の中である. 本には綴じる側に穴を4個所開け, 図のように糸を通して綴じる. この糸の線はEuler Circuitになっている. つまり一筆で書け, 出発点に戻れる. だから1本の糸で綴じられる.

しかしトポロジーの問題ならそこまでだが, 和綴じの場合は糸が節点から外れないように通す必要がある.

和綴じは別に一筆書きの問題ではないから, 糸はそれぞれの穴の中を3回通す. つまり穴に向かって3本の糸が集まるが, どの糸も穴に入る. Eulerの件は, 線が2本増えるから, 各節点が偶点であることに変りはなく, やはり1本の糸で綴じることが出来る.

本の縦の長さをl, 綴じ目から背までの幅をm, 本の厚さをhとすると, 糸の長さは2l+8m+18hで, B5版の場合lは257ミリ, 私はmを10ミリとしているから, hを5ミリとして, 糸は(+ (* 257 2) (* 10 8) (* 5 18))=684ミリ要る. ぎりぎりでは作業がし難いから, まず1メートルくらい用意するのが常識だ.

和綴じのもう1つの技法は, 糸の端が本の中に隠れていることである. 穴のどれかの中に, 始点と終点が潜んでいる.

私流の糸の通り方を描いたのが, 下の図である. 上の図と見比べて欲しい. こういう図をPostscriptでプログラムするのは楽しい.


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