2010年3月18日木曜日

時の不定時法

落語の「時そば」でお馴染の九つ, 八つ, ..., 四つという時の表現には, 現代人には理解しかねるものがある. なぜ減るのか, なぜ一つ, 二つはないのか, なぜ九つと八つの間が八つ半ではなく九つ半なのか.

それはまず置くとして, 九つが真昼(12時)と真夜中(0時)もよいとして, 六つが6時と18時ではないのも解せない. 明六つは文字通り夜明けであって, 日の出ではなく, 暮六つは夕暮れであって, 日の入りではない. 六つから六つまでは等間隔らしいがそれも定かではない. お江戸日本橋七つ立ちは確実に暗いうちの出立であった.

これを不定時法というらしい. 英語ではtemporal hourというらしい. まぁとにかく時計がないのだから, 明るくなった, 暗くなったに頼るしかなかったのも頷ける. 国立科学博物館には, この不定時法で動く和時計があったと記憶する. でも季節毎に人手で振り子の錘の位置を調整するらしい. メトロノームの原理と同じだ. セイコー時計資料館のHP参照.

ところで岩波国語辞典の裏見返しに, 気になる図がある. 不定時法の時と現代の時との関係を示す図である. こういう図を見ると, その描き方を考えるのが私の癖で, 今回もそういう話題である.



不定時法の図の説明はこうだ. 季節によって変動する不定時を, 約1ヶ月ごとの点で示す. この図は日出・日没基準ではなく, 一般に行われた薄明(明六つ・暮六つ)基準によって作った. 円の中心点から各点を通過する直線を引くことによって, 今の時刻と対比できる.

なるほどというので, 天文年鑑をとりだす. 東京における日出没時と東京における天文薄明継続時間の表がある. 下の表は左から太陽の黄経30°おきの日付, 薄明継続時間, 日出時刻, 日没時刻である.


[ 320 125 546 1753]
[ 421 131 502 1819]
[ 521 142 432 1844]
[ 622 149 426 1901]
[ 722 143 441 1854]
[ 823 132 506 1822]
[ 924 126 530 1736]
[1024 125 555 1655]
[1123 129 624 1630]
[1221 131 647 1631]
[ 121 129 648 1657]
[ 218 126 625 1725]

これを参考に, 簡単だとばかりに書いてみた.

まったく違う図になった. これはしたり. 昔の人は, 標準時とか平均太陽時とか均時差などの概念はないのだ. 視太陽時が基準である. すると自分で計算しなければならない.



ところで不思議なのは, 天文薄明継続時間である. 天文年鑑には「太陽の高度が-18度になる瞬時と日出時または日没時との間の時間」と書いてある. しかし例えば北緯35°の地点の夏至では, 太陽がもっとも低くなる(北中か?)高度は, -35+23.5=-11.5だから, -18°にならない. この継続時間は1時間25分から1時間40分くらいである. してみると, 高度というのは, 赤緯にそって18°かと考えたが, 1時間が15°なので, 18°は1時間12分にしかならず, 不可思議のままである.

とりあえず, 夏至の昼間(あるいは夜間)の長さを計算してみることにした. 図の上の円は地球を西側から見たもので, 左右の直径が北緯35°の地平線. 傾きの線は夏至, 二分(春分, 秋分), 冬至の太陽の軌跡である. 右上方に南中時に太陽がある. 色は太陽が地上にある部分を示す. 緑は夏至, 赤は二分, 青は冬至である.



右下の円は, 赤道を北から見た図で, これで昼間の時間を計算しようと思った. その結果, θは17.73°であり, それから夏至の昼間の時間, 14時間22分が得られた. 日出, 日没は, 太陽の上の辺が地平線にかかる時刻なのだが, 中心として概算すると, 夏至の昼/夜は, 14時間20分, 9時間40分なので, OKであろう.

一般のδ(太陽の赤緯)に対する真北からの偏角θは

(define (foo delta) (define lat 35)
(let* ((a (sin (d2r delta))) (b (* a (tan (d2r lat)))))
(r2d (asin (/ b (cos (d2r delta)))))))

で計算できる.

太陽の黄経が30°,60°のときのθも知りたい. これに対応する赤緯は, 11.5° 20.0°くらいなので, 8.19°, 14.76°であった. 薄明時間を赤緯方向に20°として図を描くと以下のようになった.



最初の図によく似ているではないか.

後記
青木信仰「時と暦」によると, 明け六つは日出前定時法の二刻半, 暮れ六つは日入後二刻半(一刻は一昼夜の1/100. 二刻半は36分). 不定時法から定時法になったのは明治5年11月末, 太陽暦の採用と同時. 懐中時計の輸入普及が原因と書いてある.
Edward M. ReingoldとNachum Dershaowitzの"Calendrical Calculations"にはThe ancient Egyptians --- as well as the Greeks and Romans in classical times --- divided the day and night separately into 12 equal "hours" each. Because, except the equator, the length daylight and nighttime varies with the seasons, the length of such daytime and nighttime hours also vary with the season. These seasonally varying temporal (or seasonal) hours are still used for ritual purposes among Jews. の記述あり.

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