2014年8月25日月曜日

微分解析機

このブログでフロントラッシュの話を書いたのはもう1年も前だ.

今回の再生プロジェクトでは, 精度は二の次なので, フロントラッシュを取り付けるまでには至っていないが, Crankの本でその辺を読み直してみると, 出力軸は入力軸より10パーセント高速に回転すると書いてあった. どうしてそうなるか考えてみた.

前回 ブログに掲載したCrankの本の分解図は



だが, どうもきれいとはいえない図である. そこで描きなおしたのが下だ.



写真の右端のピンの部品は省いてある. その左のドラム, 遊星歯車キャリア, 出力軸に固定されている内歯車が, その順に描いてある. 歯車の歯は描いてないが, 歯車のつもりの円板の外径は相方の歯車の外径に合うようになっている.

さて入力軸の逆転時には, ピンがドラムのペグに当るまでの時間は, ドラムは入力軸と無関係に停止している.

しかしその左のキャリアは, 入力軸に固定されて回転しているから, キャリアの入力側の遊星は, 太陽歯車で自転させられながら, 公転する.

入力側の遊星歯車の自転はそのまま出力側の遊星歯車の自転になっている.

出力側の遊星歯車の公転と自転により, 内歯車が回転し, 出力軸も回転する仕掛けである.

上の図の太陽歯車, 入力側の遊星歯車, 出力側の遊星歯車, 内歯車の半径, つまり歯数は, 最初の写真の大きさに大体合せてある.

そこで, 入力軸に対して出力軸がどう回転するか見るための図を描いてみる.



太陽歯車 S
太陽歯車半径 SA r0
遊星歯車 P
入力側遊星歯車半径 PB r1
出力側遊星歯車半径 P'C'' r2
内歯車半径 SD'' r3

入力軸が反時計回りにθ0だけ回転すると, Pにあった遊星歯車はP'へ移動する. 入力側の歯車は始めABで合っていたが, A''B''で合うようになり, 先程のBはB'へ移動している. 弧AA''は弧B'B''と同じ長さだから, 遊星歯車の回転角θ1はr0θ0/r1である.

内歯車はキャリアに従って回転する他, 出力側遊星歯車の回転でさらにθ2だけ回転する. その角は青で示した弧の関係からr2θ1/r3になる.

従って内歯車=出力軸は, キャリア=入力軸がθ0回転するのに対してθ02回転する. θ2がθ0の10パーセントなら, Crankのいう通りだ.

上の図ではr0:r1:r2:r3が3:4:2:9になっているから, 1/6だけ速く回転していることになる. 実際のフロントラッシュの比率は, 理科大へ行って歯車の歯数を数えなければならないが, 近代科学資料館はアナコンの企画展の後, 夏休みになっているので, 再開したら見に行こう.


以下9月5日記

資料館が再開されたので, フロントラッシュの歯数を数えてきた.

太陽歯車 歯数 22
入力側遊星歯車 歯数 28
出力側遊星歯車 歯数 12
内歯車 歯数 62

従って
θ20r0r2/r1r3=0.15θ0

つまり 10パーセントではなく, 15パーセントの歯数比であった. (1/6とあまり違わないね.)

2014年8月2日土曜日

曜日の計算

数学セミナー1978年7月号に島内剛一先生が寄稿した「万年七曜表」に登場する計算尺については, すでに2回のブログで説明した.

今回は円形計算尺によるものを話題としたい. 私はこれが一番好きだ.

前回の円筒式のものを見れば, そのまま円形にもなりそうに思うが, 島内方式の円形計算尺は, また趣向が違って, 次のような形をしている. 島内流にいうと上からA,B,Cである. (私の流儀で書き直しているから数セミの図とは多少違う.)







これらを重ねるのでA,B,Cをそれぞれ黒, 青, 赤の各色で示す. A, B, Cは紙に書き込まれ, 共通の中心の回りに回転出来る. Aには時計でいえば1時方向, 3時方向, ..., 11時方向には, Cにある月名を見る穴が開いている. (島内式では5時と7時方向にしかない. 紙方式ではAとCの間にBがあるので, Bにも同じ半径で5時方向から7時方向までの円弧状の穴がある.)

Aの黒文字は西暦の上2桁で, 外周の0から15がユリウス暦, 内周の15から22がグレゴリオ暦だ. Bの青文字は外の一周が日付, 内側の3周は西暦の下2桁. Cの赤文字は, 外が週日, 内側が月名である. 週日のRは木曜のこと.

前回と同様, まず2014年7月について, これを使ってみるには, まず11時方向の黒の上2桁(20)と7時方向の青の下2桁(14)を合わせる. 下の図は黒はそのままで青を右方向に4時間分ほど回転している.



黒と青をそのように合せてから, 外側の赤の紙を, 週日名と日付が合わさるように回転し, 黒の月名用のどれかの穴から目的の月名が見えるようにする. この図では9時方向の穴に赤字の7が見える. 週日名は円周に沿って6回繰り返すので, 月名は6個の穴のどれで見えてもかまわない. このように回転すると7月1日が火曜なのが分る.

ところで, その穴で7が端の方のあるのは, ここで丸めているからで, 赤字の紙は青字の日付と赤字の曜日が重さなるように, 離散的に動かすから, このようになる.

5時方向の穴に4が見えるのは, 4月と7月は曜日の関係が同じだからだ.

再び前回同様に2000年1月について試みると



のよう黒の20と青の00が重さなり, 11時方向の枠に1が入り, 1日の相方に土曜の方のSが來るので, 1月1日は土曜であった.

例によってこの仕掛の説明である. 2014年7月の計算法について, mod 7の図を示すと次のようだ.



2014の上2桁は20なので, 黒の目盛のf(20)=5.875にマークする. 下2桁14ではg(14)=17なので, mod7をとり, 青の3にマークし, これらを合せる.

青は1.875分右に移動する. 今は赤も青と一緒に移動する.

このとき赤のb(7)=13.25は黒の目盛上では赤点の1.125に対応し, これを丸めると1になる. 従って7月0日は月曜だ.

5.875+17+13.25=36.125=1.125 mod 7

2000年1月で試みると



5.875+(-0.25)+6.75=12.375=5.375 これが黒目盛上の赤点の位置で, これを丸めて1月0日は金曜である.

調べようとする年月の0日の曜日までは分ったが, これをカレンダーに対応させるにはまたひと工夫がいる.

とりあえず青に下の図のように, 1,2,...,7を書き入れる. これが日付だ. また赤にも図のように曜日を書き込む. そして赤目盛を動かす.

また黒目盛の0(mod 7だから7も)の両側に0.5の幅をとり(つまりこの範囲を丸めると0になる), 赤目盛上の月の値の黒マークがその範囲に入るように, 青と目盛の位置を合わせながら移動するのである.

2014年7月で使ったふたつ上の図の赤目盛は一目盛分左にずれて, マークが7付近に近づき, 青の1日が赤の火曜に対応する.



2000年1月での図もこのようになる.



要するに日付と曜日はなんとなく書き入れておき, 赤目盛の黒点を黒目盛のどの値の範囲に置くと曜日と日付が対応するか試み, その範囲が0付近になるように日付を再調整したまでである.

なかなか楽しい島内方式の検討であった.

私は例によってPostScriptを活用したが, 島内さんは「円周を42等分するには, まずコンパスで6等分し, それをさらにコンパスまたはディバイダで7等分するのがよいだろう.」と書いているから, そのようにして作図していたのかもしれない.

いまやこの計算尺を作るにも文明の利器が出現してきているが, 一方計算尺がなくても曜日が簡単に分かる手段も増えていて, 計算尺の出番もない.