2017年11月9日木曜日

Mercedes Euklid

1905年にドイツで発売された, Mercedes Euklid Model 1という素敵な名前の機械式計算機があった. 自動車のメルセデスとは関係ないらしい.

タイガー計算機の修理や保守をされていた, 渡邊祐三さんの「美 機械式計算機の世界」にMercedes Euklid構造というページ(pp 68,69)があり, そこにこれは往復ラック方式であると書いていあった. 通常の説明書ではproportional leverだから比例梃子とでもいおうか. Mercedes Euklidの計算機はあまり知られていないが, 城憲三先生の「計算機械」の8,9ページにも簡單な記述がある.

なかなか面白そうな機械なので, この程そのシミュレータを作り, 感触を確かめることにした.

まずインターネットで見付たこの計算機の図である. 結構大きいものだ. これとよく似た計算機が, 東京理科大学の近代科学資料館にもあるが, それはタイガー計算機製となっている. それは実は電動化されたもので, Mercedes Euklid Model 7らしい.

この計算機(Modle 1), 巾が37cm, 奥行18cm, 高さ8cm, 重さ12Kg. 楔形の台に載っていて, 手前に傾いている. 手前の1/3くらいの上部がいわゆるキャリージで, 左右へ移動出来る.

インターネットを探すと, この計算機の シミュレータもあった. それが下だ.



上の方にOBENとあるのはoverのことで, 上から見た図である. 下のVORNEはfrontで, 正面図である. 灰色の薄い部分がキャリージに対応する. これはやってみるといちおう使えるけれども, 嬉しくないのはレジスタの数字が小さいことである. また数値の入力も面倒至極であった. というわけで自己流のシミュレータ(下図)を作った次第だ.



このシミュレータでは, 上の3/5くらいが本体, 下の2/5くらいがキャリージで, 右の方に余白があるが, そこはキャリージが動いていく場所である.

上の本体部分には, 9桁の置数レジスタMがある. 下のキャリージには, 16桁の結果レジスタP(Produktenzählwerkes)と, 8桁の回転数レジスQ(Quotientenaählwerkes)がある.

本物の計算機には, 本体側に置数レジスタに数をいれるスライダがあるが, 私のシミュレータではそういう入力法は面倒なので, 数値はキーボードから入れる.

上の本体部分の右上の円Kは, 本物の図にあるクランクハンドルのつもりである. Kと書いてある中央あたりのクリックが, ハンドルの右1回転に相当し, 加減算1回が出来る.

本体部分の左上には2個のスイッチ, ASとNCがある. ASは上に倒すとAdd Mulになり(つまりMの値がPに足され), 下に倒すとSub Divになる(Mの値がPから引かれる.) もう一方のNCのNはNormalstellung(標準状態), つまりKの1回転でQが1増え, Cは(Controlの略らしいが), Kの1回転でQが1減る.

キャリージ部分には, 左下にAEスイッチがあるが, この使用法は後述する.

このシミュレータのキャリージ下部の両端にあるLとRの矢印は, ここのクリックで, キャリージが左や右へ移動する.

Pの結果レジスタは通常の機械式計算機では, 直接数値の入力は出来ないが, Mercedes Euklidでは, 上の写真に見えるつまみ状のもので直接に入力出来る. 従って私のシミュレータでもキーボードから数値が入れられる.

M, P, Qの矢印は, それをクリックするとレジスタが零にリセット出来る. さらにMとPとでは, 矢印が黒い間はキーボードで打った数字が右から送り込まれる. MとPでは, レジスタの箱をクリックすると, 箱が黒くなり, キーボードからその桁に数字が入力できる. 負数は入力出来ない(負数は存在しない).

以下が基本的な使い方である.

加減算

加減算には置数レジスタMと結果レジスタPを使う. 例えば123+456なら, 左上のASスイッチをA(Addition)にし(クリックする度にAとSが切り替わる.) P矢印を2回クリックしてPレジスタをリセットする. (クリックが1回だと, Pが入力モードになったままである.)

次にM矢印をクリックして入力モードにし, キーボードから123を入れ, Mを再びクリックして入力モードから脱出し, Kのハンドルをクリック, 加算を1回行う.

もう1度Mに456を入れ, Kをクリックすると, 結果レジスタに和579が出来る.

ハンドルを回す度にQレジスタの内容も変化するが, いまは関係ないので無視しよう.

減算も同様だが, ASスイッチをS側にしておく. こういう計算機には負数というものはない. 引いた結果が負になると, 結果レジスタが16桁なので, 1016の補数表示になる. 例えば結果レジスタを0にしておき, 1を引くと, 結果レジスタは9999999999999999になる. 最上位まで繰下げが伝わるのは驚きである. タイガー計算機やBrunsvigaなどOdhner型の計算機では, 繰上げ, 繰下げは途中で止まってしまう.

乗除算

123を3倍したければ, 置数レジスタに123を置き, 結果レジスタをリセットし, ハンドルkを3回クリックする. 23倍したければクリックを23回やってもよいが, キャリージを右に1桁移動し, 置数レジスタが結果レジスタの10の桁に足せるようにして, 10の桁で2回足す. 乗算の積は結果レジスタに出る. 結果レジスタがPという名前なのは, (Product)だからであろう.

何回足したかわかるように, 回転数レジスタがある. キャリージがどの位置にあっても, 置数レジスタの1の位置に対応する回転数レジスタの桁で, NCスイッチがNの時は1が足され, Cの時は1が引かれる. その際, 回転数レジスタ内でも繰上げや繰下げは最上位まで正しく処理される.

従って通常の乗算の時は, ASスイッチはA, NCスイッチはNにしておく.

除算では, 披除数を結果レジスタに, 除数を置数レジスタに置き, キャリージで引く位置を調整しながら, 引き算を繰り返す. (見た目は悪いが, 結果レジスタに披除数が直接入れられるのは, 非常に便利である. 引いた回数が商になるから, NCスイッチはCにする.

披除数の最上位と除数の最上位の位置が合うようにキャリージを合わせ, 筆算でやるように, 各桁で引けなくなるまで, つまり結果レジスタ≤置数レジスタになるまで引き算を繰り返す. 商は回転数レジスタに得られる. このレジスタがQなのは, ここに商(Quotient)が出るからであろう.

短絡乗算

ある桁の乗数が8とか9とか大きい時は, 8回や9回まわすのではなく, 上の桁を1回多く足しておき, この桁では2回か1回引くことで済ませられる.

例えば256×4096なら, Mに256を置き, 3桁右シフト. 切替スイッチをAとNにして4回(4000倍を足した), 1桁左シフト, 1回(100倍を足した), 2桁左シフト, 切替スイッチをSとCにして4回まわす(4倍を引いた). この時, Qレジスタは4096, Pレジスタは1048576(=2^20)になっている.

自動除算

Mercedes Euklidは除算を容易にするために考案されたといってもいいような計算機であった. 例として1048576を144で割ることを考えよう. この除算の商は7281, 剰余は112である.

Pレジスタに1048576, Mレジスタに144を置く.

1048の下に144が來るようにキャリージを右3桁シフト.
SNにして負になるまで回転. 8回で Pレジスタは999...896576で負になり, Qレジスタは8000になる. この様子を下に示す.
Mercedes Euklidでは, 加減算の後, 結果レジスタが正から負, または負から正へ変化すると, ハンドルが固定され回転できない仕掛けyになっている. ー計算器ではベルがなるだけであったが, Mercedes Euklidではハンドル動かなくなることで,いわゆる引放し除算を実現している.



Mercedes Euklidにはさらに工夫があり, キャリージを右シフトした時に内部でスプリングを卷きあげ, 左シフトの時はラッチを外すだけで, スプリングの力で移動する. またAEスイッチをEの側にしておくと, キャリージが動くと同時にA/S, N/Cが反転する. Youtubeに除算をしている動画がある. この速さ除算が出来るのは見事というしかない. ただ白状すれば, どこでラッチを外しているか, 私にはよく判っていない.

0 件のコメント: